【現役の信用金庫職員が解説!】銀行格付の話~Part3~

皆様、こんにちは。信用金庫で融資審査を担当しているしんちゃんと申します。日々、多くの中小企業の皆様と接する中で、融資における格付けの重要性を実感しています。今回は、その格付けについて詳しくお話しし、皆様の融資獲得に向けたヒントをお伝えしたいと思います。

目次

1. 銀行融資における格付けの重要性

銀行融資を受ける際、多くの経営者の方々が「なぜ融資が通らないのか」と悩まれることがあります。実は、その答えの多くは「格付け」にあるのです。格付けとは、企業の信用度を評価するシステムで、融資の可否や条件を大きく左右します。私たち金融機関は、この格付けを基に融資の判断を行っています。

格付けは主に二つの要素から構成されています。

  1. 定量分析(約70%)
  2. 定性分析(約30%)

定量分析は、財務諸表に基づく客観的な数値評価です。一方、定性分析は経営者の資質や事業の将来性など、数字には表れにくい要素を評価します。今回は、特に定量分析に焦点を当てて解説していきます。

2. 定量分析の主要指標

定量分析では、主に以下の指標を用いて企業の財務状況を評価します。

安全性指標

  • 自己資本比率
    自己資本比率は、企業の安全性を示す重要な指標です。これは、総資産に対する自己資本(純資産)の割合を表します。
自己資本比率=自己資本÷総資産×100

一般的に、この比率が30%以上あれば良好とされます。例えば、総資産1億円の企業で自己資本が3,000万円あれば、自己資本比率は30%となります。

  • ギアリング比率
    ギアリング比率は、自己資本に対する負債の割合を示します。
ギアリング比率=負債総額÷自己資本×100

この比率は低いほど良く、100%以内が望ましいとされます

流動性指標

  • 流動比率
    流動比率は、短期的な支払能力を示す指標です。
流動比率=流動資産流動負債×100

140%以上あれば良好とされますが、私の経験上、中小企業では150%以上、できれば200%以上あると安心です。

  • 固定長期適合率
    固定長期適合率は、長期的な資金の調達と運用のバランスを示します。
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100

この比率は低いほど良く、100%以下が望ましいです。特に、60%以内であれば非常に良好と言えます

収益性指標

  • 売上高経常利益率
    売上高経常利益率は、企業の本業での収益力を示す重要な指標です。
売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100

中小企業では、3%以上あれば良好とされます。

  • 総資本経常利益率
    総資本経常利益率は、企業の総合的な収益力を示します。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100

この指標も3%以上あれば良好です。通常、自己資本比率が30%を超え、売上高経常利益率が3%を超えている企業は、総資本経常利益率も3%を超える傾向にあります。

成長性指標

  • 経常利益の増加率
    経常利益の増加率は、企業の成長性を示す重要な指標です。
経常利益増加率=(当期経常利益−前期経常利益)÷前期経常利益×100

30%以上の増加があれば非常に良好とされます。

規模指標

  • 自己資本額
    自己資本額は、企業の規模を示す指標の一つです。中小企業では、3億円以下が一般的ですが、できるだけ高い方が良いでしょう。
  • 売上高
    売上高も企業規模を示す重要な指標です。中小企業の平均売上高は約5,000万円程度ですが、1億円以上あれば評価が上がります。

3. 返済能力の評価

返済能力の評価は、融資判断において最も重要な要素の一つです。主に以下の3つの指標を用いて評価します。

  • 債務償還年数
    債務償還年数は、現在の利益水準で借入金を返済するのに何年かかるかを示します。
債務償還年数=有利子負債÷(経常利益+減価償却費)

製造業、建設業、運送業などの製造業系企業では10年以内、卸売業やサービス業などの非製造業系企業では7年以内が望ましいです。

  • インタレストカバレッジレシオ
    インタレストカバレッジレシオは、利払い能力を示す指標です。

インタレストカバレッジレシオ=営業利益支払利息インタレストカバレッジレシオ=支払利息営業利益​業種に関わらず、3倍以上あれば良好とされます。

  • 減価償却前営業利益
    減価償却前営業利益は、企業の実質的なキャッシュフローを示す指標です。この指標は企業規模によって大きく異なるため、一概に基準を示すことは難しいですが、高ければ高いほど良いと言えます。

4. 業種別の評価基準

業種によって評価基準が異なる場合があります。以下に主な違いをまとめます。

製造業系企業の目標値

  • 債務償還年数:10年以内
  • 自己資本比率:30%以上
  • 売上高経常利益率:3%以上

非製造業系企業の目標値

  • 債務償還年数:7年以内
  • 自己資本比率:25%以上
  • 売上高経常利益率:2%以上

ただし、これらは一般的な目安であり、個別の事情によって評価が変わることもあります。

5. 格付け向上のための戦略

格付けを向上させるためには、以下のような戦略が効果的です。

  1. 自己資本の増強
    • 利益の内部留保
    • 増資の検討
  2. 収益性の改善
    • コスト削減
    • 高付加価値商品・サービスの開発
  3. 資金効率の向上
    • 在庫管理の最適化
    • 売掛金回収の迅速化
  4. 負債の適正化
    • 過剰借入の抑制
    • 返済計画の見直し
  5. 成長戦略の策定と実行
    • 新規事業の展開
    • 既存事業の拡大

これらの戦略を組み合わせて実行することで、各指標の改善が期待できます。

6. 専門家の活用

格付けの向上には、専門家の力を借りることも有効です。特に以下の点で専門家の支援が役立ちます。

  • 税理士との連携
    税理士は財務諸表の作成や分析に精通しています。定期的に相談し、財務状況の改善策を検討することをお勧めします。
  • 銀行の評価基準の理解
    私たち銀行員も、お客様の事業をよりよく理解し、適切なアドバイスをさせていただきたいと考えています。遠慮なく相談にいらしてください。

7. まとめ:融資獲得に向けた総合的アプローチ

格付けの向上は、一朝一夕には実現しません。しかし、以下の点に注意して継続的に取り組むことで、必ず成果は表れます。

  1. 財務指標の定期的なチェックと改善
  2. 業界動向や経済環境の把握
  3. 事業計画の策定と実行
  4. 金融機関との良好な関係構築

最後に、格付けは重要ですが、それだけが融資の判断基準ではありません。企業の将来性や経営者の資質など、定性的な要素も重要な判断材料となります。日々の経営努力を怠らず、金融機関とのコミュニケーションを大切にしていただければ、必ず道は開けると信じています。皆様の事業の更なる発展を心よりお祈りしております。

参考文献

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