こんにちは。信用金庫で融資審査を担当しているしんちゃんと申します。今回は、銀行が融資をしたくなる会社の決算書について、私の経験を交えながらお話しさせていただきます。起業を考えている方や中小企業の経営者の皆様にとって、融資を受けやすくするためのポイントをお伝えできればと思います。
1. 銀行融資の審査基準を知る
融資審査の世界へようこそ。私たち銀行員が融資を検討する際、最も重要視するのが決算書です。実は、融資審査の約8割は決算書で判断されているのです。
決算書の重要性
融資審査において、決算書は会社の健康診断書のようなものです。私たちはこの健康診断書を通じて、会社の財務状態や収益力を把握します。決算書を見れば、その会社が融資を受けるに値するかどうか、そして融資した資金を確実に返済できるかどうかが分かるのです。
審査の3つの柱
融資審査には3つの重要な柱があります。
- 損益計算書(収益力)
- 貸借対照表(財務状況)
- キャッシュフロー計算書(資金繰り)
これらの書類を総合的に分析することで、会社の全体像を把握します。今回は特に貸借対照表に焦点を当てて、銀行がどのように会社を評価しているかをお伝えしていきます。
2. 貸借対照表を読み解く
貸借対照表は、会社の財政状態を示す重要な書類です。資産、負債、純資産の3つの要素から構成されており、これらのバランスを見ることで会社の財務健全性を判断します。
自己資本比率の重要性
自己資本比率は、会社の安定性を示す重要な指標です。計算方法は以下の通りです。
自己資本比率 = (純資産 ÷ 総資産) × 100
例えば、総資産が1,000万円で純資産が300万円の場合、自己資本比率は30%となります。
銀行では、業種に関係なく自己資本比率30%を一つの目安としています。この数字を達成していれば、財務的に安定していると判断されやすくなります。
自己資本比率が低い場合、会社が借入金に依存しすぎていると判断され、融資が難しくなる可能性があります。逆に、自己資本比率が高ければ高いほど、銀行からの信頼度は高まります。
手元流動性の確認
手元流動性は、会社の支払能力を示す指標です。計算方法は以下の通りです。
手元流動性 = 現預金 ÷ 月商
例えば、現預金が300万円で月商が200万円の場合、手元流動性は1.5ヶ月となります。
銀行では、手元流動性が2ヶ月以上あることが望ましいとされています。これは、売上が急激に落ち込んだ場合でも、2ヶ月間は事業を継続できる資金的余裕があることを意味します。
手元流動性が低い場合、急な支払いに対応できない可能性があるため、融資の判断に悪影響を与える可能性があります。一方で、手元流動性が高すぎる場合は、資金を効率的に運用できていないと判断される可能性もあるので、バランスが重要です。
3. 借入状況の評価
会社の借入状況は、融資審査において非常に重要な要素です。ここでは、借入月商倍率と債務償還年数という2つの指標を中心に説明します。
借入月商倍率の理解
借入月商倍率は、会社の借入金が月商(月平均売上高)の何倍に相当するかを示す指標です。計算方法は以下の通りです。
借入月商倍率 = 借入金総額 ÷ 月商
例えば、借入金総額が500万円で月商が200万円の場合、借入月商倍率は2.5ヶ月となります。
銀行では、運転資金の場合、借入月商倍率が3ヶ月以内であることが望ましいとされています。3ヶ月を超えると、借入金の返済に苦労する可能性が高くなると判断されます。
ただし、借入金の用途によって判断基準は異なります。運転資金(日々の事業運営に必要な資金)と設備資金(設備投資や不動産購入などに使用する資金)では、評価が異なります。設備資金の場合は、その投資が将来的にどれだけの収益を生み出すかという点も考慮されます。
債務償還年数の把握
債務償還年数は、現在の借入金を返済するのに何年かかるかを示す指標です。計算方法は以下の通りです。
債務償還年数 = 借入金総額 ÷ 年間キャッシュフロー
ここでの年間キャッシュフローは、簡易的に「経常利益 + 減価償却費 - 法人税等」で計算します。
例えば、借入金総額が500万円で年間キャッシュフローが100万円の場合、債務償還年数は5年となります。
債務償還年数の適正値は業種によって異なります。
- 卸売・サービス業:7年以内
- 製造・建設・運送業:10年以内
- ホテル・旅館業、病院:20年以上
債務償還年数が長すぎる場合、借入金の返済に時間がかかりすぎると判断され、新規融資が難しくなる可能性があります。一方で、業種特性を考慮しながら判断するため、ホテルや病院など大規模な設備投資が必要な業種では、より長期の債務償還年数が許容されます。
4. 業種別の特徴と融資の考え方
融資審査において、業種ごとの特性を理解することは非常に重要です。各業種によって、必要な設備や運転資金の規模、収益性のパターンが異なるため、それぞれに適した融資の考え方があります。
一般企業vs特殊業種
一般的な企業(卸売業、サービス業など)と、特殊な設備や長期的な投資が必要な業種(製造業、建設業、運送業など)では、融資の考え方が異なります。
▼卸売業やサービス業の場合
- 比較的少額の設備投資で事業を開始できることが多い
- 運転資金の回転が早い傾向にある
- 債務償還年数は7年以内が目安
これらの業種では、短期的な資金繰りと収益性が重視されます。借入月商倍率が3ヶ月以内に収まっているかどうかが重要な判断基準となります。
▼製造業、建設業、運送業の場合
- 大型の設備投資が必要なことが多い
- 運転資金の回転が比較的遅い傾向にある
- 債務償還年数は10年以内が目安
これらの業種では、長期的な視点での投資回収計画が重要になります。設備投資の必要性や将来の収益性を詳細に検討します。
長期融資が必要な業種
ホテル・旅館業や病院などの業種は、特に長期的な視点での融資判断が必要です。
▼ホテル・旅館業の特殊性
- 巨額の初期投資が必要(建物、設備など)
- 定期的な大規模修繕が必要
- 収益が季節や経済状況に左右されやすい
- 債務償還年数は20年以上が一般的
▼病院など大型設備を要する業種の事情
- 高額な医療機器の導入が必要
- 建物の特殊性(耐震性、衛生面など)から建設コストが高い
- 安定した需要が見込める一方、制度変更のリスクもある
- 債務償還年数は20年以上が一般的
これらの業種では、長期的な事業計画と、それに基づく詳細な資金計画が重要になります。初期投資の大きさから、融資額も大きくなりがちですが、それだけに慎重な審査が行われます。
5. 融資を受けやすくするための戦略
ここまで、銀行が融資審査で重視するポイントについて説明してきました。では、実際に融資を受けやすくするためには、どのような戦略を取ればよいでしょうか。ここでは、決算書の改善ポイントと借入構造の最適化について説明します。
決算書の改善ポイント
- 自己資本比率の向上策
- 利益の内部留保を増やす
- 不要な資産を売却して負債を減らす
- 増資を検討する
- 手元流動性の管理方法
- 売掛金の回収を早める
- 在庫管理を徹底し、過剰在庫を避ける
- 不要な固定費を見直す
これらの施策を実行することで、決算書の数字が改善され、融資を受けやすくなります。ただし、一朝一夕には改善できないので、中長期的な視点で取り組むことが重要です。
借入構造の最適化
- 運転資金と設備資金のバランス
- 運転資金は短期借入、設備資金は長期借入を基本とする
- 借入月商倍率を3ヶ月以内に抑える努力をする
- 設備投資は将来の収益性を十分に検討してから行う
- 返済計画の立て方
- 無理のない返済計画を立てる(債務償還年数を意識)
- 季節変動がある業種は、返済額に変動をつけることも検討
- 返済原資(キャッシュフロー)の安定性を高める努力をする
借入構造を最適化することで、銀行からの信頼度が高まり、融資を受けやすくなります。また、返済負担が軽減されることで、事業の安定性も高まります。
まとめ
銀行融資を受けるためには、決算書の数字を良くすることが重要です。特に以下の点に注意してください。
- 自己資本比率30%以上を目指す
- 手元流動性2ヶ月以上を確保する
- 借入月商倍率を3ヶ月以内に抑える
- 業種に応じた適切な債務償還年数を意識する
これらの指標を改善することで、銀行からの評価が高まり、融資を受けやすくなります。ただし、これらの数字を良くすることだけが目的ではありません。健全な経営を行い、持続可能な事業を築くことが最も重要です。
融資を受けることは、銀行との長期的なパートナーシップの始まりです。お互いの信頼関係を築きながら、事業の発展を目指していくことが大切です。
最後に、融資審査は複雑で、ここで紹介した以外にも様々な要素が考慮されます。不明な点があれば、遠慮なく銀行や信用金庫の担当者に相談してください。私たちは、皆様の事業の成功を心から願っています。
融資審査の世界は奥が深く、常に変化しています。この記事が皆様の理解の一助となり、成功への道筋を立てる手がかりになれば幸いです。皆様の事業の更なる発展を心よりお祈りしております。