はじめに
こんにちは。現役の信用金庫職員のしんちゃんです。今回は、銀行融資における「保全」について詳しく解説します。経営者の方々や若手金融マンにとって、融資の際に避けては通れない重要なトピックです。
保全の定義と重要性
銀行業界で「保全」という言葉を耳にすると、多くの方は「担保」を思い浮かべるでしょう。その認識は正しいのです。銀行における保全とは、融資した資金を確実に回収するための手段を指します。
保全は融資において非常に重要な要素です。なぜなら
- 銀行のリスク軽減につながる
- 融資の可能性を高める
- 金利の優遇を受けられる可能性がある
経営者の皆様、保全をしっかり理解することで、融資交渉を有利に進められる可能性が高まります。
人的担保の種類
人的担保とは、個人や法人が保証人となって融資の返済を約束する形態です。主に以下の3種類があります。
連帯保証
多くの中小企業の経営者が経験する形態です。会社の債務に対して、個人として保証する仕組みです。
▼メリット
- 銀行にとってリスクが低減される
- 融資の可能性が高まる
▼デメリット
- 経営者個人の資産にリスクが及ぶ
信用保証協会の保証
各都道府県に設置されている信用保証協会が保証人となる制度です。
▼メリット
- 担保や保証人が不足している企業でも融資を受けやすくなる
- 銀行にとってもリスクが軽減される
▼デメリット
- 保証料が必要
- 審査基準が厳しい場合がある
保証会社の保証
ノンバンクなどの保証会社が保証人となるケースです。
▼メリット
- 銀行融資が難しい場合の選択肢となる
- 審査が比較的迅速
▼デメリット
- 保証料が高額な場合がある
- 金利が高めになることが多い
物的担保の種類
物的担保とは、融資の返済を担保する具体的な資産のことです。主に以下のようなものがあります。
不動産(土地・建物)
最も一般的な物的担保です。
▼メリット
- 高額の融資が可能
- 金利が比較的低くなる可能性がある
▼デメリット
- 評価額が時価で変動する
- 担保解除に時間とコストがかかる
その他の担保
- 売掛金
- 在庫商品
- 機械設備
- 有価証券
これらは不動産ほど一般的ではありませんが、状況に応じて活用されます。
保全不足の意味と対応策
「保全不足」という言葉を銀行から聞いたことはありませんか?これは、融資の返済に対して十分な担保や保証がないという意味です。
保全不足と言われた場合の対応策
- 追加の担保を提供する
- 保証人を立てる
- 事業計画を見直し、返済能力を向上させる
- 融資額を減額して再申請する
よくある質問と回答
- 保全と返済財源の関係は?
-
返済財源が十分であれば、保全が不足していても融資が可能な場合があります。ただし、銀行によって判断基準は異なります。
- 個人資産を全て開示する必要がありますか?
-
全てを開示する必要はありませんが、ある程度の資産背景を示すことで、銀行との信頼関係構築に役立ちます。
- 保証協会付き融資のデメリットは?
-
保証料が必要なこと、審査に時間がかかる場合があることなどが挙げられます。
銀行が保証協会付き融資を勧める理由
銀行が保証協会付き融資を勧める主な理由は、リスク軽減と自己資本比率の改善です。
例えば、1億円の融資を行う場合
- 通常の融資:銀行の資産として1億円計上
- 保証協会付き融資:オフバランス化により資産計上不要
これにより、銀行の自己資本比率が改善されます。
▼計算例
自己資本比率 = 自己資本 / リスク資産*100
(自己資本が10億円、リスク資産が100億円の場合)
10億円 / 100億円 * 100 = 10%保証協会付き融資でリスク資産が1億円減少すると
10億円 / 99億円 * 100 = 約10.1%このように、わずかですが自己資本比率が改善されます。
個人資産背景の重要性
個人資産背景の定義
個人資産背景とは、経営者個人が保有する資産のことです。具体的には
- 預金・貯金
- 不動産
- 有価証券
- 生命保険の解約返戻金
- 高額な動産(美術品など)
これらの資産は、融資の際の判断材料となります。
銀行への適切な伝え方
個人資産背景を銀行に伝える際のポイント
- 必要最小限の情報を開示する
- 資産の種類と概算額を伝える
- 資産の流動性についても言及する
- 家族名義の資産がある場合は、その旨を説明する
例:「不動産を2物件(合計評価額約1億円)、上場株式(評価額約2000万円)、預金(約3000万円)を保有しています。また、妻名義の不動産(評価額約5000万円)もあります。」
ケーススタディ
ケース1:創業間もない企業の融資
▼状況
- 創業2年目のIT企業
- 売上は順調に伸びているが、まだ利益は少ない
- 事業拡大のため3000万円の融資を希望
▼対応
- 詳細な事業計画書の作成
- 経営者の個人資産背景の開示
- 信用保証協会の活用
- 売掛金や知的財産権の担保化の検討
▼結果
信用保証協会の保証を得て、2500万円の融資を受けることができた。
ケース2:老舗企業の設備投資
▼状況
- 創業50年の製造業
- 安定した業績だが、設備の老朽化が課題
- 1億円の設備投資のための融資を希望
▼対応
- 詳細な投資計画と返済計画の作成
- 既存の不動産担保の再評価
- 新規設備を担保として提供
- 経営者の個人保証の提供
▼結果
不動産担保と新規設備の担保化により、1億円の融資を受けることができた。
経営者が知っておくべき保全のポイント
- 返済財源が最重要:保全は重要ですが、返済財源の確保がより重要です。
- 担保は最後の手段:担保は融資が返済できなくなった時の最後の手段です。日々の事業運営と返済計画が重要です。
- 個人資産背景の戦略的開示:必要以上の開示は避けつつ、銀行との信頼関係構築に活用しましょう。
- 保証協会の活用:メリット・デメリットを理解した上で、適切に活用しましょう。
- 定期的な資産評価:担保となっている資産の価値は変動します。定期的に評価を見直しましょう。
- 複数の保全方法の組み合わせ:人的担保と物的担保を組み合わせることで、融資の可能性が高まります。
- 事業計画との整合性:保全の提供が事業の成長を妨げないよう、バランスを取ることが重要です。
- 専門家の活用:税理士や公認会計士など、専門家のアドバイスを積極的に求めましょう。
- 銀行との対話:保全について不明点があれば、遠慮なく銀行に質問しましょう。対話を通じて相互理解が深まります。
- 将来を見据えた戦略:現在の融資だけでなく、将来の資金需要も見据えて保全戦略を立てましょう。
以上、銀行融資における保全について詳しく解説しました。経営者の皆様、そして若手金融マンの方々にとって、この知識が今後の融資交渉や業務に役立つことを願っています。融資は企業の成長に欠かせない要素です。適切な保全戦略を立てることで、より良い条件での融資獲得につながるでしょう。最後に、融資は単なる資金調達ではなく、銀行とのパートナーシップを築く機会でもあります。オープンなコミュニケーションを心がけ、互いに win-win の関係を構築していくことが、長期的な企業の成功につながると信じています。